東京高等裁判所 昭和63年(ラ)772号 決定
以上によれば、本件差押え及び転付命令の債務名義である前記確定判決に表示された相手方の抗告人に対する請求債権(損害賠償請求権)は、和議開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であるから和議債権であるということができ(和議法四一条)、和議認可決定が確定したことにより前記和議条件のとおり変更を受け、その定めるところに従い、一部が免除され、かつ弁済期限が猶予(最初の弁済額は元本債務の二・五パーセントにつき和議認可決定確定後二年を経過した時)されたことになる。
しかし、右請求債権の変更は、請求権の存在又は内容に関するものであるから本来請求異議事由になりうるものであるが(民事執行法三五条一項)、執行抗告の理由になりうるためには、執行裁判所が民事執行の手続に関する裁判をするにあたり自ら調査し遵守すべき事項に欠缺があったことを要し、債務名義に表示されていない請求権の不存在、消滅及び減縮は執行抗告の理由とはなしえないものである。
なお、債務名義が確定判決であるときは、請求異議の事由は口頭弁論の終結後にその原因が生じたものであることを要し(同法三五条二項前段)、本件におけるように本案事件の口頭弁論終結前に生じた和議認可決定の確定による和議の効力を請求異議の事由として主張することはできない。
次に、和議開始前に和議債権について債務者の財産に対してした強制執行は和議の開始とともに中止され、和議認可決定の確定によりその効力を失い(和議法四〇条二項、五八条)、また、和議手続中は和議債権について強制執行をすることはできない(同法四〇条一項)が、和議債権についての訴訟手続は和議開始によって中断されることはなく、和議認可決定の確定によっても影響を受けることはない。そして、和議手続は和議認可決定の確定によって終了するから、その後に債務者に対し執行力のある確定判決を取得し、これを債務名義として債務者の財産に対して強制執行をすることは何ら妨げられず、強制執行の内容も和議条件に拘束されることはないというべきである。
これを本件についてみると、相手方は、抗告人についての和議手続が開始する前に本案事件を提起し、和議認可決定が確定し和議手続が終了した後に金員の即時給付を命ずる確定判決を得たものであり、本件差押え及び転付命令(原決定)はこれを債務名義として発付されたものであるから、原決定に執行裁判所が自ら調査し遵守すべき事項の欠缺はなく、これを違法ならしめる事由は存しないといわなければならない。
したがって、この点についての抗告人の主張は理由がない。
(松岡 牧山 小野)